山手線で

まだ日が高い初夏の夕方に、

ガラガラの山手線に乗っていた。


これから始まる夜のための準備をしているかのような、眠たい夕方。


反対側の座席に、汚れたサンダルをはいて

大股をあけて寝ている南アジア系の男性がいる。


僕はスマートフォンで、ニュースを見ている。

時々画面に、西日がさして眩しい。


横にスーツを着た女性が座ってきた。

彼女は文庫本を取り出して読んでいた。


着いた駅でふと、南アジア系の男性は起き上がり

サッと電車を降りて行った。

降り立ったときに少し戸惑ったふうに見えた。


僕は彼が座席に残したリュックを見て慌てた。

届けようと思った矢先に、

南アジア系の男性の、横に座っていた若い男性が、

リュックをサッと手に取り、彼を追おうとした。


その途端にドアは閉まった。

リュックを手に、若い男性は困った笑顔をし、

「これ、どうしましょう」と僕に聞いてきた。

ふいに聞かれたことに困惑しながらも、

僕は少し考えた挙句、

「置いておきますか?いや、車掌さんに届けますか」と答えた。

彼は「そうですね、僕届けてきます」と、

爽やかに言い残し去っていった。


文庫本の女性は、しばらく去る彼の背中を見つめ

また本に目を戻した。